[ファンタジーな10title]


さらわれたお姫様旅先で知り合った人回復魔法本当は優しい人脱出不可能
ピンチの時の助け仲間との別れ天使のような歌声信じられない事実勇気と言う名の剣

文字サイズ: 12px 14px 16px [06:ピンチの時の助け]

「いち、にい、さん、しい……六匹ね」
さん、全体攻撃でずばっとやっちゃってください」
「オッケー」
 いきなり襲いかかってきたモンスターから間合いを取り、そんな会話を交わす。
「まとめて灰になれー!」
 が威勢良く両手を前に突き出し、次の瞬間大爆発が起こる。ばたばたとモンスターは倒れ、さて行こうか、と二人踵を返した時、小さな声が二人の耳に届いた。
「ギギ……」
 それはうめき声だっただろうか。最後の力を振り絞って生き残っていた一匹が二人に襲いかかった。先に気付いた悟飯がさっと迎え撃つ体勢を取るが、一瞬遅れたためか間に合いそうにない。しまった、と思ったその時、ザンッと大地を抉り取る音と共に、モンスターは深く開いた穴の中に消えてしまった。
「な、何が起こったの?」
「さあ……?」
 穴をのぞいてもその底は見えない。そのあまりの深さに呆然としたままの二人の頭上に、突然さっと影が差した。
「大丈夫だったか、お前たち」
 ふと見上げるとそこには人の影。しかし逆光で、というよりもその人の頭が太陽を反射して、眩しくて見ていられない。ただ、マントがはたはたと風に揺れているのはわかる。
「どちら様ですかー?」
 悟飯が目に手をかざしながらそう問うと、人はこう答えた。
「俺の名は天津飯。たまたま通りかかったらお前たちがモンスターに襲われていたのでな。なに、礼はいらん」
 礼をするかどうかはさて置き、とにかく降りてきてくれ。眩しくて敵わんとどちらともなく思ったからか、すーっとその男は二人の目の前まで降りてきた。良く見ると、なるほど光を反射してもおかしくないほど見事なハゲである。
「とにかく、ありがとうございました」
「うむ。偶然とはいえ人助けをできてこっちも嬉しいぞ」
 はあ、そりゃどうも、とが口を挟んだその時、天津飯のマントがごそりと動いたような気がして、はじっと動きを見守る。猫か何か抱えているのか、と思って見ていると、ひょっこり顔を出した物があった。丸い目に真っ赤なほっぺ。子供のようではあるが、一応は人間だ。
「ん? ああ、こいつは餃子。俺の(人生の)相棒だ」
「コンニチハ」
「あ、どうもこんにちは」
 頭を下げたとてそれ以上会話がはずむはずもなく、それぞれ挨拶をした二人が天津飯に視線を戻すと、ふと思い出したかのように天津飯が目を開いた。
「そうだ。これをお前たちにやろう」
 何をくれるのかと思いきや、餃子のかぶっていた帽子に手をかけると、天津飯はピッとそれを引き抜き――。
「ア――――――ッ!」
 耳をつんざくような悲鳴に悟飯とは思わず後ずさった。
「なななな、なんです?」
 声の出所を確かめようと二人して探し回り、やっと一つの可能性に行き着く。
「あの、それ抜いちゃいけなかったんじゃ……?」
 天津飯の指にある一本の毛と、その腕の中で気絶している餃子と見比べて、恐る恐るが尋ねても、天津飯は顔色一つ変えない。
「大丈夫だ。いつものことだからな」
「いつものことって」
 そう呟いた悟飯の目の前に餃子から抜き取られたほやほやの髪の毛が突き出される。
「ピンチになった時はこの髪の毛に向かって助けを呼べ。いつどこにいても助けに来る」
「あ、どうも……」
「それではな。気をつけて旅をするんだぞ!」
 溢れんばかりの笑顔でさっと手を振り、天津飯は行ってしまった。もちろん、気絶した餃子を抱えたまま。
 残された二人は数十秒後、ようやくはっと我に返る。
「いつものことって、あちこちでバラまいてるのかな」
「だけどあれではあまりにも餃子さんがかわいそうです……ってさん、見てください」
 何かに気付いた悟飯の指先にが顔を近づけた。
「これ、毛根がついてます」
「ってことはもう生えてこないじゃない」
「いいんでしょうか。最後の一本だったのに」
「まあ、私たちがやったんじゃないんだからいいんじゃない?」
 それもそうですね、と答えて悟飯はポケットの中に髪の毛を突っ込んだ。

「あれ? こんなとこに髪の毛が」
「私のじゃないわよ」
「僕のでもないです」
 数週間後、ポケットを整理していて出てきた髪の毛をつまみ出してそんな会話を交わしただろうか。
 他のいらないゴミと一緒にくずかごに捨てられたその髪の毛のことを、二人揃って思い出す日はついぞ訪れなかった。

▲モドル   NEXT




















文字サイズ: 12px 14px 16px [07:仲間との別れ]

 逃げるしかない、とは覚悟を決めた。
「こんなんじゃ分が悪すぎるわ……」
 目の前で大口を開けてを見据えるモンスターは、少し傷を負っているにしろ、まだ倒れる気配はない。今からでも呪文を唱えれば少しは深手を負わせることができるかもしれないが、それをしていては悟飯の命が危なくなる。
「こうなったら……それーッ!」
 気合を込めてそう叫び、荷物袋と悟飯の襟を掴んで一目散にその場から走り去る。心臓がはちきれそうなほど早く鼓動するが、それよりもまず後ろから重い足音を響かせてやってくるモンスターから逃げ切らなければ。
 草むらを走り回り、ふと見えた穴の中に飛び込む。ここなら、あの馬鹿でかいモンスターは入ってこれない。案の定、穴の周りをうろついていたモンスターは諦めたのか、どこかへと行ってしまった。
「た、助かったあ……」
 ほっと胸をなでおろし、座り込んだその場では自分に回復呪文をかける。みるみるうちにモンスターに引っかかれた傷は塞がり、ギリギリだった体力も何とか戻ってきた。
「さて、悟飯くんは……悟飯くん?」
 一緒に運んできた悟飯は、大怪我を負ってすでに気絶している。いや。
「悟飯くん? ちょっと、悟飯くん!?」
 呼びかけても揺すってみても目を覚ます気配はない。それどころか、触れた体もどこか冷たいような気がする。それに気付いてはさっと、冷水を浴びせられたような気になった。
 恐る恐る手を伸ばした先にある傷は、右肩からざっくりと左脇にまで達している。それに合わせてねっとりと服を染める赤い血は未だ止まっていないのか、触るとぬるりとの手を汚した。
 ああ、と喪失感が全身を駆け巡る。まさかこんなところでこんなことになるとは。しかし、現実は現実。きちんと受け止めなければ。
 こんな時だというのにやけに冷静だと己を嘲笑しながらも、は手のひらにぽうっと光を集めた。せめて傷口だけはきれいにして埋めてあげよう。
「いつになるかわからないけど……いつか、ピッコロ姫に会えたら伝えてあげるからね……」
 その姿を見たことはないが、話もあれほど聞いてきたし、きっと出会えばすぐにわかるだろう。そして出会ったら伝えるのだ。あなたを救おうとして命を落とした青年がいたということを。あなたに会いたい一心で旅を続けてきた男がいたのだということを。
 今や、どこに傷口があったのかはわからない。ただ、安らかな顔をして横たわる彼はもう二度と目を覚まさないのだろうと思うと、とたんに寂しくなってきて、はその場でそっと目を閉じた。もう少しだけ。もう少しだけこの別れを惜しんだとしても、誰も責めることはないだろう。
(さよなら、悟飯くん……)
 そう心の中で呟き、彼の手をそっと握って――。
「なに寝言言ってるんですか」
「……え?」
 目を開いてよく見ると、朝日の中こちらを覗き込んでいる悟飯と目が合う。とたんにはっと現実に引き戻された。
「もしかして生きてるの?」
「勝手に殺さないでください。しかも夢の中で」
「あっそう」
 ふと顔をそらしてはチッと舌打ちをした。
「もうちょっとで悲劇のヒロインになれたのに」
「そんなこと死んでもさせません。だいたい、誰が『悲劇の』ヒロインですか。『喜劇の』ヒロインになれるかどうかも怪しいくせに。そもそも、この物語のヒロインはさんじゃなくてピッコロ姫です」
 それよりさっさと支度してください、と一言残し、悟飯は部屋を出て行った。今日もまた冒険が始まる。

▲モドル   NEXT




















文字サイズ: 12px 14px 16px [08:天使のような歌声]

「この森ってどこまで続くの?」
「さあ」
「さあって」
 言いながらもどんどん進む悟飯の後ろをも追っていく。だが、もうかなり歩いているというのに一向に終わりは見えない。
「もしかしてまた迷ってんじゃないの?」
「そんなことはないと思うんですけどねえ、ほら」
 ほら、と指をさされては足元を見る。
「ちゃんと人の歩いた道があるでしょう」
「あら、ほんと」
 適当に歩いているように見えてその実、ちゃんとそんな道を見つけていたのか、とは感心した。なるほど、こんな時には悟飯得意の集中力が物を言う。
「よくこんな道見つけたわね……ってわあッ!」
 勢い余っては悟飯の背中に激突した。しかし、悟飯はまったく動かない。それどころか辺りをキョロキョロと見渡して何かを探してるかのようにも見える。
「どうかした?」
「何か聞こえません?」
 何がと言うより前に耳を澄ます。飛んでいく鳥の羽音。それから何の動物か、仲間を呼んでいるような声。
「――こっちです!」
 ある方向を指差したかと思うと悟飯はがさごそと道を踏み外しだした。
「ちょ、ちょっと! 動物の声しか聞こえないじゃない」
「ええ? この美しい歌声が聞こえませんか?」
「美しいも何も……『キョッキョッ』って声しか聞こえないけど?」
「なんだ。ちゃんと聞こえてるんじゃないですか」
 笑って悟飯はさらに森の奥へと歩いていく。対しては目を見開いて瞬間追いかけるのも忘れたほどだ。いったいどうやったらあの獣の声が『美しい歌声』に聞こえるのか。もしかして美的感覚がズレている? それより前に彼の聴覚がどうかなっている?
 それでもこのまま森の中に置き去りにされるのは敵わないと、もようやく悟飯に追いついてその服を引っ張ろうと手を伸ばす、と。
「うわあああッ!」
「きゃあああッ!」
 二人そろって悲鳴を上げたと同時にばさばさと枝葉の騒ぐ音。
「いたたたた……」
「お、重いですよ、さん」
 くぐもった声に、は文句の一つでも言ってやろうと悟飯の姿を探した。しかしどこにも姿は見えない。それどころか、の視界には何やら網のようなものが写っていて、自分がどういった状態なのかまずは頭を整理しようと頭を後ろにもたげて。
「ど、どうなってんの?」
 まるでの両肩から悟飯の足が生えているように見える。まさかと思い自分の膝を曲げた先にあるつま先を見るとああ、やはり。そこには予想通り悟飯の顔があった。
「とにかくここから出ましょう」
「出ましょうってどうやって」
「それを今から考える――」
 悟飯が最後まで言葉を紡ぐことはなかった。
「この森ってどうなってんの……」
 ふわりと体が浮いた感触がしたとたん地面へとどさりと落ちて、ようやく自分たちは吊るされていたのだと気付く。しかしそれよりも今はここから抜け出すことを考えなければいけない。がさがさと近付いてくる音がどうか獣の類でありませんように、と祈りながら。
「す、すみません。まさか人がいるなんて思わなくて……」
 聞こえた声に二人が顔を上げたそこにいたのは人間だった。黒い髪を縛り、頭には赤と白の混じった羽がささっている。
「ここら辺の人ですか?」
 尋ねた悟飯に彼はこくりと頷くと、すぐに網を解いてくれる。抜け出して初めてそれが獣を捕まえる罠だと気付いたが、何より驚いたのは例の『美しい歌声』の正体だ。
「獲物を呼び寄せていたんですけども」
 そう笑って青年――ウパと名乗った――は、もう一度あの声を出してくれた。やはりどう聞いてもには『キョッキョッ』としか聞こえない。しかし、悟飯はまるで天使でも見るようにうっとりとした表情でしばし聞き入った後。
「本当に素敵な声ですね……!」
「そ、そうですか?」
 ウパは照れてしかしどこかわからないような顔をした。それを見ては、やはり悟飯の美的感覚がおかしいのだと決着をつける。
「あ、ところで。ここら辺に天空の神殿にまつわる話があると聞いて来たんですけど」
 何か知りません?とあまりにもどたばたとしていてすっかり忘れていた本題を悟飯が出すと、ウパははっと目を見開いた。
「天空の神殿のことを知っているんですか?」
「いや、とある文献で読んで、そこを探してるんです」
「そうですか」
 そしてウパは話してくれた。確かにこの地域には天空の神殿にまつわる話があることにはある、と。ただ、その詳細を誰も知らないのだ。
「カリン塔の上にいる仙人様が全てをご存知だという話はあるんですが……」
「カリン塔?」
「ほら、あの高い塔です。あの塔の上までたどり着けたものだけがさらなる高みを知ることができる、と」
「じゃあ、あそこに行きましょう、ね。さん!」
「ええ? あんなの登れるわけないじゃない!」
「大丈夫! 僕が運んであげます」
 神殿に辿りつけるかもしれないとわかるやいなや、急に元気になった悟飯に半ば引きずられるようには連れていかれ。
「本当にこれで大丈夫なの?」
「これはさっきの罠と同じ綱です。安心してください。ちょっとやそっとじゃ切れません」
 悟飯の背中に荷物と一緒に縛り付けられ、果たして本当に大丈夫なのかとが不安になる中、悟飯はよしと気合一つ、塔に手をかけた。
「お気をつけて!」
「本当にありがとうございます!」
 見送ってくれたウパ一家に手を振ると、悟飯はとんでもないスピードで塔を駆け上り始めた。

▲モドル   NEXT




















文字サイズ: 12px 14px 16px [09:信じられない事実]

 悟飯が化け物じみているのか、それともこの塔は思ったより易かったのか、あっという間に塔を登った悟飯(と担がれたままの)は、その先で出会ったネコ仙人もといカリン様とやらを力いっぱい脅して神殿への道を繋げさせた挙句、仙豆というミラクルな回復道具を強奪し、ついに神殿へと辿りついた。
 正直、その時の悟飯のたちの悪さは普段のを上回る勢いだった。あれほど人の犯罪行為を咎めていたくせに、いざピッコロ姫に会えるとなると法なんて破るためにあるのだと言わんばかりだ。
「恐喝でしょ、強盗でしょ」
「違います。お願いしていろいろやってもらったんです」
「物は言いようだよね」
 呆れた声を出したを背中から降ろし、悟飯はすっと息を吸い込んだ。
「ピッコロ姫ー! 助けに来ましたよー!」
 その声たるや、世界中に響き渡るのではないかというほどで、思わずが耳を塞ぐと同時に、神殿の中からこれでもかと言うほど柄の悪い怒鳴り声が聞こえた。もちろん、お返事で、だ。
「何をしにきた、悟飯――とその横のチビ」
「チビじゃなくてです! あんたこそ、人のことチビだって何様よ」
「ピッコロ姫です」
「そう、ピッコロ姫……ってえええええ!?」
 悟飯に言われては絶叫した。嘘だろうと目で言っても悟飯はすでに幸せそうに腕を広げているだけだ。
 そもそも目の前の緑色の人物は決して『姫』というような風貌ではない。確かに真っ白のマントを羽織り、紫色の胴着のようなドレスを着てはいるが、身の丈も悟飯よりかなり大きく、声も低い。顔だって「やつが邪神です」と言われてもうんと頷けるような顔をしている。しかし、悟飯はこれが『ピッコロ姫』だと言うのだ。
「あんた、ほんとにピッコロ姫?」
「ああ、オレがそうだ」
 しかも一人称が『オレ』。こいつは参ったとしか言いようがなく、の口から自然と乾いた笑いが漏れる。薄々おかしいとは思っていたが、どう見てもピッコロ姫はさらわれるようなか弱い姫ではないではないか。
「あ、あの。ピッコロさん……?」
 腕組みをしたピッコロ姫の後ろから、ちまっと小さい緑色の顔が飛び出た。
「デンデ。お前は下がっていろ」
「え、でも……」
「怪我をしたくなければ下がっていろと言っているんだ」
 怪我? 戦うのは邪神デンデとかいうのではなかったか。がそう頭をひねった時、横からいきなりぶわっと風が吹いてきた。見れば悟飯がこれでもかというほどテンションを上げている。
「キサマがラスボスか!」
「は、はい?」
「覚悟しろ、邪神デンデ! ピッコロ姫を返して貰おう!」
「え、ええええ? どどどど、どういうことなんです? どうなってるんです?」
 邪神?デンデは目を白黒させながら、ピッコロ姫と悟飯の間に視線を通わせる。
「落ち着くんだ悟飯。これにはきちんとしたわけがある」
 までもが少し距離を取る中、悟飯の勢いをものともせず、ピッコロ姫はずんずんと進み出ると、そっと悟飯の肩に手を置いた。
「よく聞け。実は、オレはもともとこの神殿の住人なんだ」
「え……?」
「それってつまり、自分の家に帰ったってこと?」
 が状況を口にすると、ピッコロ姫は神妙な面持ちでこくりと一つ頷いた。
「オレはたびたびここを抜け出して修行をしていてな、たまたま赴いた荒野で悟飯と出会った。なかなかの素質を持った奴だと踏んでずっと修行をつけてきたんだが、いかんせんオレも人を育てるという行為は初めてだったからいろいろ甘やかしてしまったんだろう。ちょっと姿を消せば大騒ぎしやがる。そう、ちょうどあの時も――」
 その日、いつものように悟飯に修行をつけていたピッコロ姫の元に、デンデの付き人であるミスター・ポポが血相を変えてやってきた。何でもデンデが熱を出して倒れたと聞き、彼の後見人であるピッコロ姫が慌てて神殿へと戻ろうとしたちょうどその時、その光景を見た悟飯が勘違いしたのだろう、というのがピッコロ姫の見解だ。
「要するに、全部悟飯くんの勘違いってわけね」
 だけど邪神って。あのデンデって子がかわいそう、と口にしたに、キッと悟飯は視線を向けた。
「ピッコロ姫をさらうような奴は邪神なんです!」
 目に涙までためて言うことかと、その場にいた誰もが内心思ったのは言うまでもない。

▲モドル   NEXT




















文字サイズ: 12px 14px 16px [10:勇気と言う名の剣]

「まだわからんか、悟飯」
「わかりません。わかるわけありませんッ!」
 かれこれ三十分ほどそんなやり取りを見続け、そろそろ終わらないだろうかとが思っていた矢先、ふとピッコロ姫のため息が聞こえた。どうやら、相当てこずっているようである。
「仕方がない」
 そんな呟きが聞こえ、どうしたものかと皆が見つめた瞬間の出来事だった。
「うッ……わあああああ――――ッ!」
 悲鳴と共に悟飯の姿は消えた。正確に言えば、ピッコロ姫が神殿から思いっきり突き落としたのだ。
「え? あの、悟飯くーん?」
 神殿の淵からのぞきこんでも最早悟飯の姿は見えない。今頃地上へと向かってスリル満点の紐なしバンジーを味わっているところだ。
「し、死んじゃった……」
 まさかこんなところでその二。夢に見たことが少し状況が違うとはいえ、現実になってしまうとは。いや、と初めての頭は真面目に考え出した。悟飯がこのような目に合った今、一緒に旅を続けてきたの身も危ないのではないか。どうにかして助かる方法はないか、と必死に頭をひねってもいいアイディアはちっとも浮かんでこない。
 しかし、それを止めたのは他ならぬピッコロ姫だ。
「安心しろ。ここから落ちたくらいで死ぬほどあいつはヤワじゃない」
「それ信じていいの?」
「オレの言うことが信じられんというのか?」
 ギロリと睨まれ、とんでもないとは首を振った。今はとにかくなるべく従順を装っておかなければ。
「さあ、神殿に入るか」
「え?」
「普通の人間でここに来たのはお前が初めてだ。なかなかやるじゃないか」
 熊手のような手でワシワシと頭を撫でられ、は「ええ、まあ」と小さな声で返事をする。
「ミスター・ポポ。このチビ、おっと。に何か食い物を用意してやってくれ」
「わかった」
 神殿から顔をのぞかせていた付き人がこくりと頷き、奥へと入っていく。代わりに、ぱたぱたと走ってきたのは邪神呼ばわりされていたデンデだ。
「初めまして。僕、この星の神を勤めさせて頂いてるデンデって言います。さんは地上の方なんですよね?」
 言われて握手を求められ、ははた、と止まった。この小さな人は邪でないにしろ、神であることに変わりはなかったのだ。
「僕、ほとんど地上に降りたことってないんです。地上のお話、いっぱい聞かせてください」
 無邪気にそう頼まれて「嫌です」とは到底言えない。
「それじゃ、ここに来るまでの話、してあげる!」
「本当ですか?」
 ぱあっと顔を輝かせたデンデを見て、心なしかピッコロ姫の顔にも笑みが浮かぶ。
「あ、ところで」
「何だ」
「悟飯くん、無事なんだとしたらまたここに登ってくるんじゃないの? だとしたらまだ大騒ぎになるんじゃ」
「その時は迎え撃てばいい。お前もこの旅で力をつけたんだろう?」
 確かにはこの旅で驚くほど成長した。野を越え山越え谷越えて、立ち塞がる敵をなぎ倒し、悟飯の特訓という名のしごきにも耐えて、驚くほど強くなった。呪文は攻撃・回復問わず、だいたいのものはこなせるし、小さなスライム相手に敵前逃亡することもなくなった。困った人を見れば(少々の欲は絡むが)手を差し伸べることも少なくない。彼女はもはや『町の人A』ではないのだ。もし今本当に世界が邪悪に飲み込まれようとしていたとして、どこかで勇者が立ち上がり、この噂を耳にしたのなら、迷わず彼女に協力を請うだろう。
 二日酔いのために覚えた回復呪文が元でこんな壮大な旅をすることになるなど、誰が予想できただろうか。まさしく、事実は小説より奇なり。
「とにかく腹を満たして力を取り戻せ。それから作戦を立てよう」
「じゃあ、ご馳走になります!」
 来るべき敵の恐ろしさは誰よりもよく知っている。そのためにはベストの状態で臨まなければと考えて、明るく声一つ、は神殿へと招かれたのだった。

 めでたし、めでたし。

|| HAPPY END!? ||

* あとがき *
そんなわけで似非RPG終了。最後悟飯がとんでもないことになってますが。
普段書かないキャラをいろいろ書きましたが、何で皆こんなにネタにし易いんだろうと。さすがDB。