文字サイズ: 12px 14px 16px [September〜頼みの綱は〜]-04-

 でも、そこでふと疑問がわいた。
「話変わって、デンデくんのいたナメック星にも文字とかあるって言ってたけど、本とかはあったの?」
「昔はあったようなんですが……今はありませんね」
 それって天変地異と何か関係あるのかしら。
「僕たちナメック星人はあの時に一度文明を捨てたんです。きっとあの天変地異は、文明が進化しすぎたゆえに星のバランスが崩れたんだろう、と解釈されたからなんですけど。それからは、歴史を書物で残すということはなくなりました」
 何だか身につまされる話ねえ。地球もそうならなきゃいいんだけど。
「それに僕たちは子供に記憶を伝えることができますしね。ほら、地球でもよく親が子供に昔話をするでしょう。それを卵を産む時にやっちゃうだけです」
 うん。それは前にも聞いたけど。それはかなりの離れ技、地球人にはかなり難しいことだと思う。だって、記憶の伝承って。人類の脳みそにつまってる記憶をパソコンか何かで移せるようになったら可能かもしれない。あ、でもそれはダメだ。今までの恥ずかしい記憶とか知られたくないもの。自分の子供に「おかあさん……」って生ぬるい目で見られたくないもの。
「そんなにきっちり移るものじゃありませんよ。何となく、知識として知ってる程度のものです――あっ、見えてきましたよ」
「え? どこどこ?」
 いくら背を伸ばしてみても、どこにも二人の姿はない。そうでなくても暗いのに、デンデくんには何が見えてるというの。
 だけどデンデくんの言葉の通り、少し進んだところでようやく私にも見えた。こちらに向かってくる二人の姿が。
「本、見つかったのよ!」
 本をつかんだままの手を大きく振ったら、悟飯くんは空中で嬉しそうに手を叩いた。それに対してピッコロさんは。
「なんだ、どこにあったんだ」
 といきなり質問。もしかして、自分で見つけられなかったのが悔しい――のはちょっとありそう。だって、言わなくても顔がそうなってる。
「ずーっと手前の方にね。どうやら、年代別に分かれてたみたい」
「わあ、さん。すぐに法則見つけたんですね」
「ううん。ポポさんが見つけてくれたの」
 言ったとたん、みんなの顔色が変わった。
「どこにいるんだ、ミスター・ポポが」
「だから、いたんだってば。この本見つけてくれたんだから」
「でも、ポポさんの気感じませんよ」
「それが、見つけたらすぐいなくなっちゃって」
「変ですね。閻魔大王様から使いの方が見えた時に、地球人の今年の死亡者数をチェックをするって聞いたんですが」
「その仕事、早く終わったんじゃないの」
 だって、あれは紛れもなくポポさんだったもの。別に声が変とか見た目が変とかなかったし。
「だが、閻魔の使いが嘘を言う風には思えん。あの書類のチェックには一日でも足らんくらいだ」
 ちょっとー。私がウソ言ってるっていうの? 違う違う。ちゃんとポポさんだったんだから。
「お前、確か視力が低かったな。他の誰かと見間違えたんじゃないのか」
 思いっきり疑ってかかられてる。そんなに私の言うことが信用できないのっ。
「でもそうだとしても変ですよ。ポポさんじゃなければ、他にこの神殿に誰がいるというんです」
 デンデくんの一言に全員はっとなった。そういえばそうよね。神殿フルメンバーって、今ここにいるデンデくんとピッコロさんと、ポポさんしかいないじゃない。私は他の誰も見たことないけど。
「僕も見たことありません」
 悟飯くんがそう言えば、他の二人も首を縦に振る。
「もしかして、僕が知らないだけで、他にもポポさんのような方がいらっしゃるんでしょうか」
「悪いが神の記憶にもそういうものはない。……誰かが忍び込んだとも言えるが、そういう気配もなかったしな」
「だけど、どう見てもポポさんだったんだってば。ターバンも飾りも、声も口調も間違いなくポポさんだったんだって」
 私の抗議を最後に、みんな沈黙してしまった。私も色んな可能性を考えてみるんだけど、どうもよくわからない。だって、あれがポポさんじゃなければ誰だというの。
「でも考えてても始まりませんよ。帰ってきてからポポさんに聞いた方が早いんじゃないんですか?」
「だが、この図書室に誰かが紛れ込んでるのなら、放ってはおけんだろう」
 そう言うなり、ピッコロさんはマントを翻した。
「ちょっと、どこ行くの?」
「怪しい奴がいないか見てくる。お前たちはさっさと出て行け」
 そんなこと言ったって、ピッコロさん一人で大丈夫なの。相手が力に任せてやってくるとは限らないのに。
「待ってください。僕も行きます」
 ピッコロさんが言うやいなや、悟飯くんまでそう言ってくっついていこうとする。どうすりゃいいの、ねえデンデくん。
「……一時間。一時間経ったら戻ってきてください。侵入者がいたとしてもそれだけあれば十分でしょうし、もしそれで片付かない場合は緊急事態とみて対策を立てなければいけないので。とにかく一時間以内に戻ってくるって約束してください」
「わかった」
「一時間以内に戻ってくるよ」
 約束を交わして二人は図書室の奥へ。私たちはとりあえず、出口目指して、先ほどと同じように移動した。いったいどうなっちゃうの。こんな時にまた敵だーとかなったら学校どころの騒ぎじゃないわよ。
「でも、でもよ。デンデくん」
「何ですか?」
「もし、さっきのポポさんが敵だったとして、どうして私の本を探してくれたのかしら」
「うーん。怪しまれるといけないと思ったんじゃないでしょうか」
「でももし私がその敵ならね、こんな弱そうな一般人生かしておかないと思うけどなあ。さっさと口封じて、どっかに死体隠しとけばまず見つかりそうにないじゃない」
「でも気を探れば生きてるか死んでるかくらいはわかりますよ。さんが行方不明になったら、真っ先に探しますし。一人で図書室を出られるようには思えませんし、それならきっと図書室の中にいるはずだってなるでしょう」
「だけどよ、あの探し方は、姿を真似てるだけではできないと思うのね。本当に、慣れてる人じゃないとできないような探し方よ」
「どんな風に探してたんです?」
「それが、棚の真ん中辺りまで浮いて、さーっと視線走らせてなかったら次の棚、って感じで。それに、どの年代の本がどこにあるかもわかってたみたいだし」
「敵の中には相手の記憶をコピーできる者もいますよ」
「でもそうだとしたら、ポポさんが一番危ないんじゃない。だって、神殿に帰ってきて、ポポさん二人いたら絶対怪しいもん。先にポポさん見つけてやっつけて、それから姿見せるもんじゃない?」
「ポポさんは仕事ででかけてますからね。もしあちらに行ってなければ神殿の方に連絡が来るから、どちらにしろばれてしまいます」
 うーん。どこまでいっても平行線。話がまとまる気配はない。それよりも、前からこの図書室でそういうことがなかったのか、それが問題よ。
 でもそういうことを聞いても、デンデくんに覚えはなかったみたい。
「ただ不思議なんですよね」
 ぽつりと出た一言に私は反応した。
「たまに図書室に本探しに来ると、誰かに見られてるような気がするんです」
 誰かに見られてる? 話によると、それはここに来た時からたまにあるらしい。初めはポポさんが心配してるのかと思ったけど、そういうわけでもなく、きっと気のせいだろうと済ませてるみたいだけど。
「それは何か怪しいわよ」
「あ、怪しいって何がですか」
「だからそれ、きっと気のせいじゃないって」
 確かに人のいないところでふと視線を感じるようなことってある。でもそれって周りを見てたら意外と猫が見てたとか鳩が見てたってことなのよね。でもこの神殿にそういうのっていないじゃない。――それはつまり、ほかにもそういうのがこの図書室にいるってことで。
 ここで、私はとんでもない仮説を立ててみた。
「ねえ、ポポさんって家族いるの」
「家族、ですか? いえ、聞いたことありませんけど……。ポポさんは、初代の神様が創られたそうですよ。神様一人で何でも仕事をやるのは大変なので、お世話やお手伝いをしてもらえるようにって。それはポポさんから聞きました」
 ってことは私の推理ははずれじゃない。きっと、ポポさんに家族がいて、ここにひそかに潜んでんじゃないかって思ったんだけど。
「それはありませんよ。ポポさんは一人だけです」
 一笑にふされちゃって、私はしょんぼり。そうよね、ちょっと大胆すぎる仮説よね。そんなことを思いながら私たちは外へ出た。神殿用に合わせてる腕の時計はすでに午後七時を回ってる。
 来た時と同じように長い階段を上って、ようやくてっぺんに出た私たちを迎えてくれたのは満天の星空だった。いつ見てもここの星空はきれいね。地球から見えるだけでもこんなに星があるんだって改めて驚いちゃう。
「とにかく、何か飲み物入れましょうね。さんはれぽーともやらなきゃいけないし」
 そう、レポートよ。こんな緊急事態だけど、私の方もある意味緊急事態。とにかく書きながら悟飯くんたちが戻ってくるのを待ってよう。
 荷物からレポート用紙とペンを取り出して、私は探してもらった本とにらめっこを始めた。読むったって、全部きっちり読むつもりはないわ。重要そうなとこだけぱらっと見て、教科書と照らし合わせていけばいいのよ。これは大学でレポート書き続けてきて身に着けたテクニック。全部読んでたら重要そうなことまで忘れちゃうもの。メモに適当にとって、さくさく次に進める。これなら時間短縮よ。
 デンデくんはといえば、のんびりお水を飲みながらずっとこっちを見てる。きっと、こういうことをする人を見るのは初めてなのね。そりゃ、神殿でレポートする人間なんて、そうそういないでしょうに。

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