文字サイズ: 12px 14px 16px [September〜頼みの綱は〜]-05-

 そんなことがしばらく続いて、要点をちょうど書き出し終えた頃、悟飯くんとピッコロさんは戻ってきた。
「どうでした?」
 デンデくんの問いかけにも二人は首を振るばかり。
「気を探ってみたんだが、それらしきやつはいなかった」
「ついでに探してみたんだけどまったく」
 つまり、あの人はもう図書室にはいなかったの?
「結果としてはそういうことになりますね」
「じゃあ、もしかして出ていったとか」
 何気なく言った一言にピッコロさんの目の色が変わった。
「確かお前、出口のそばで会ったと言ってたな」
「うん。出口から四列目にあったんだもん」
 見終えたばかりの本をひらひらさせると、ピッコロさんの顔はどんどん険しくなっていく。なに、私また何かやらかしちゃった?
「……悟飯、まだ時間はあるのか」
「え、ええ。今日は遅くなるって」
「ついて来い。神殿中を探す」
 ええーっ。いきなりそんな大捜索網。ちょ、ちょっと待って。
「その前にピッコロさんに聞きたいんだけど。図書室行ったことある?」
「はあ? あるに決まってるだろうが」
「だったらさ、そこで視線感じたことない?」
「視線?」
 繰り返して、ピッコロさんは黙ってしまった。首を傾ける癖は考えてる証拠だって、悟飯くんが教えてくれたっけ。
「そういえば」
「そういえば?」
「何度かは、ある。だが、それとこれとどういった関係があるんだ」
 それに対して、私はやっぱり、と頷いた。
「それね、デンデくんもあるんだって。しかも、ここに来た時から何度も」
 ねえ、とデンデくんを見れば、ぼんやりとしていたのか慌ててこくこくと頷く。
「それってどういうことなんですか」
 悟飯くんが興味津々とばかりに聞いてきたので、ここで私はまたしても仮説を出した。つまり、図書室には元から誰かいるんじゃないかってこと。
 確かに悟飯くんとピッコロさんが探しても誰も見つからなかった。ただ、ここで引っかかったのは、悟飯くんが前に言ってた人造人間の話なのよね。何でも、気っていうのは生き物の体から発せられてるから、少しでも生物的部分があるものからは感じられるらしいんだけど、これが機械となると話は別で、まったくそういうものを感じないらしい。そこで仮に、図書室の中にいるのが機械か何かだったとしたら――答えは簡単。悟飯くんたちが探しても見つからないのは当たり前なのよね。
「でも一応、書架の上から探したんですよ」
「見間違いってこともあるじゃない。わかりにくい場所にいたとか、隅っこの方にいたとか。理由は何でも考えられるわ」
「機械ならあの特有の音が聞こえるだろうが」
「じゃあ、機械じゃなくて人形か何かだとしたら?」
 そういえばピッコロさんは耳がいいんだった。機械のモーター音なら聞こえるよね。でもそれなら、デンデくんも今までに聞いてたはず。だけど、デンデくんはそんな音は聞いたことがないという。だったら、人形って想像はつくんじゃない?
「とにかく、今ここでごちゃごちゃ言っていても始まらん。オレはもう一度図書室を見てくる」
 言うなりさっさと行ってしまうところはらしいというか何というか。今度は悟飯くんの協力も断って、ピッコロさんは一人で行ってしまった。図書室なら自分一人でも大丈夫だって。
 それを見送ってふと時計を見ると、針はすでに九時を回っていた。話している間にも、デンデくんはこっくりこっくりと舟をこぎ始めていて、このままじゃ机に突っ伏して寝てしまうのはもう時間の問題だった。それもそう。いつもこの時間に眠りだすんだから、そうなっていても不思議はない。
「もういいや。帰ろう」
「えっ、レポートは大丈夫なんですか?」
「うん。あとはもう書き写して、ちょっと体裁整えるだけだから」
 それより、とデンデくんの方を指差したら、とたんに悟飯くんの口から笑いが漏れた。
「相当疲れてるみたいだから、早く寝かしてあげようよ」
 いつだったか、ピッコロさんが言っていた。神様の仕事に終わりはないんだって。もちろん、休みもない。来る日も来る日もただひたすら、地上のことを見守り続けていく。それを、死ぬまでずっとやっていくのが『神様』という仕事らしい。一見のんびりしてるように思えるこの神殿での生活も、私たちの知らないところで、地球のためにといろんなことをやっている。それをデンデくんはこの地球に来てからずっと、一日もさぼらないで頑張ってるんだって聞いた。……その後に、バイトをずる休みした私への説教があったんだけど。
 荷物をまとめてからデンデくんを起こしたら、すみませんと何度も謝られたんだけど、それをなだめて私たちは神殿を後にした。送ってくれた悟飯くんに今日のお礼を言ったら、その後はただひたすら机に向かってレポートを作成して、日付が変わる頃、ようやく私もベッドにもぐりこむ。落ち着いたとたん、頭の中は例の図書室のことでいっぱいになって、まさか眠れないんじゃないかって思ったけど、やっぱり私も疲れてたみたいで、ふと目を覚ましたら、これでもかってくらい眩しい朝日が飛び込んできてた。
 うーん。めんどくさいけど、今日からまた学校頑張るか。

「勘だけはよく当たるんだな」
 授業が終わって、再び神殿に顔を見せた私たちに投げかけられたのは、ピッコロさんのそんな一言だった。それと同時に手渡されたのは、小さな石の人形。何だか変だな、と思ったのは、その人形がポポさんにそっくりだったから。
「あのですね、さんの言ってたこと、大当たりだったんですよ」
 呼ばれたお茶の席で、デンデくんは目をキラキラさせながら事情を話してくれた。私たちが帰ってからも、ピッコロさんは図書室の中でずっと探索を続けていたらしい。そこで見つけたのがこの人形だったと。もちろん、ピッコロさんもそんな人形は知らなかったというけど、ぱっと見ただけで、それがポポさんが作ったものだというのには気付いた。そこで、翌朝(つまり今朝ね)帰ってきたポポさんに聞いたところ、すべての謎が解けたってわけ。
「それ、ポポが三代前の神様に言われて作ったもの。その頃、今よりずっと神殿の仕事多かった。神様とポポだけじゃ手の回らないこともあった。だから神様、ポポに人形作れって言った」
 そして作ったこの人形に神様が命を吹き込んだんだって。ああ、なんて神様らしい仕事なの。
 しかもこの人形にはちょっとした細工があるらしく、普段はただの石の人形なんだって。でも図書室でポポさん以外の人がうろついてたら、たちまちポポさん二号になるんだって。それは、図書室の警備にもなってるし、いわゆる検索パソコンのような状態でもあるらしい。――私に近づいてきたのは、本来いるはずのない私が図書室にいたから、不思議に思ったんだろうって。
 そこから先はよくわかんないんだけど、この人形はポポさんの魂の一部を使って命を吹き込まれてるので、ポポさんと同じ記憶を共有してるという話。そこら辺、普通に話されたけど、ちょっと突飛すぎて、一般人の私にはついてけない。
「それでさん、ポポさんがいたって言ってたんですね」
「これポポの分身。だからがそういうの間違ってない」
 ポポさんをかわぎりに、デンデくんと悟飯くんから浴びせられる賞賛の言葉の数々。うーん、これほど気持ちいいってことない。そう、みんな褒めて! もっと私を褒めて! 普段褒められることなんて滅多にないから調子に乗っちゃう。

 だけど、その後のいつもの修行タイム、私は普段の三割増しでピッコロさんに叱られることになる。というより、どっか機嫌悪いのね。どう見ても八つ当たりギリギリレベルなのね。
 私、恨まれるようなことした覚えなんてないんだけど。もしかしてピッコロさん、私が賞賛を受けたから妬んでるの?と冗談まじりで言ったら、本気で殴られて頭蓋骨陥没骨折。悟飯くんが慌ててデンデくんを呼んでくれたおかげで、死の淵からは生還できたわけだけど。
 こう、もうちょっとね。力の加減ってやつを考えてくれないと。いつか私、本当に死んじゃう。

|| THE END ||
October〜愛・哀・引越戦記〜